世界の中心で不幸を叫ぶ私

部活が終わった後、私は友人とともに、体育館の片付けをしていた。バトミントン部に所属しているため、ネットをたたんだり、モップで汚れを取ったりと、かなり大変な仕事だった。私は、友人とネットの端と端を合わせながら、問わず語りに話し始めた。

「私、絶対久美よりも、実力があると思うの。それなのに、監督はどうして久美ばっかり評価するのんだろう。久美はちゃんと試合に出れるのに、私はレギュラーにもなれてない」

「久美ってさ、自慢が多いじゃん。だから、監督にもよく見られてるんだよ」

私が自分を不幸だと口にするたび、自分を傷つけるたびに、じんわりと体中に広がる快感を味わう。甘いものを求めているときに、チョコレートを口にして、頭が幸せの海で浸るよう。それは、いつも不足し求めている、心地よい感覚だった。もっと欲しい。もっと感じたい。私はさらに自分自身を傷つけた。

「それにさ、久美っていつも男にモテるじゃん。でも、私なんか全然男に人気じゃない」

「そんなことないよ」

「ええ、違うよ。私、料理も得意じゃないし、お裁縫だってできないし」

「……」

「男の人にモテる要素なんてないっていうか」

私がつらつらと言葉を並べると、友人は、眉間にしわを寄せた。どうしたのだろうと、私は口を開きかけた。しかし、それより一歩早く、友人は私に、冷たい口調で言い放った。

「もう聞いてられない。帰る」

「え?なんで?」

急に友人の機嫌が悪くなり、私は驚くことしかできなかった。友人は、そんな私を一瞥すると、声を張った。

「あなた、いつも嘆いてるけど、私に言って何の意味になるの?そんなことするくらいなら、久美みたいに主張すればいいじゃん。すこしはこっちの身にもなってよ。毎回、自分はさも程度の低い人間です、みたいに言われて。困るんだけど」

「ごめんなさい。私なんかと一緒にいちゃつまんないよね」

「ほら、また自分なんか、じゃん。それに、私なんかと言ってる人と一緒にいる私は何なの?」

「ごめん、そういうつもりじゃ……」

友人は、大きなため息をついた。

「あなたは、嘆いて何が言いたいの? 本当は何をしたいわけ?いつも共感してくれるって思ってたなら、途方もない勘違いだよ」

「別に私は……」

「久美は、自慢ばっかりするけど、あなたも同じだよ。やり方は真反対だけど、人から注目されるためにやってるんでしょ?」

「それは……」

私が返答に詰まると、友人のまなじりが吊り上がった。

「なんで行動しないの? なんで嘆いてばっかなの? 自分を見てくれる人を探せばいいだけじゃん」

「勇気がないの」

「ああ、そう。じゃあ一生そうやって嘆いてればいいよ」

「そんなこと言わないで……。あなたには嫌われたくないの」

私は、友人へ懇願するような視線を送った。しかし、友人は私と顔を合せなかった。

「私があなたと一緒にいるのは、話が合うし、楽しいからなの。嘆いて気を引くあなたの隣にいたいわけじゃない。いつも共感してたからって、勘違いしないで」

 話が合う。楽しい。そんな風に思ってくれているとは、思わなかった。私は、知らないうちに悲劇に浸る快感を求めていた。胸の内に徐々に広がる、はちみつのような、濃厚で甘い感覚。それは、不安だった私の心を埋めるためのものだったのかもしれない。

「……私、知らないうちに、あなたの目を私に向かせようと必死になっていたんだね」

「うん、それもあると思う。でも、あなたは嘆くことで、自分の存在を実感していたんだと思うよ。」

自分の存在を実感する。つまり、自分を傷つけ、辛さ悲しみを感じることで、自分が生きていることを心で強く感じていたのだ。今まで気が付かなかった。私は嘆くたびに、自分自身を実感してた事に。

「そうだったんだ。びっくりした。私は、何度も自分に刃物を刺していることと、同じことをしていたんだね。……今まで、ごめんね。今度からは、楽しい話をしよう。私が嘆いていたら、教えてくれる?」

私は、友人を再び見つめた。今度は、友人も私の目を真っ直ぐ見てくれた。

「わかった。私の前では、不幸を叫ばないと約束して。自分を傷つけるんじゃなくて、これからは明るい話をいっぱいしよう」

 胸の奥で鳴る幸せの鐘。体中に降り注ぐ、喜びの雨。自分を否定することで得る快感とは別の気持ちよさが、私を襲う。友人は、私を認めてくれた。話すことが楽しいと。その言葉すべてが、私にとっては心地よかった。

 私は、自分を憐れむことに終止符を打った。自分を傷つけなくても、よくなったからだった。それは、友人がいつも私を認め、受け入れてくれるおかげだった。

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