周りの目が気になって仕方ない

私は、周りの目を気にする人だった。

自分の発言一つ一つに細心の注意をはらい、常に人の顔色をうかがう。

相手が決めたことには必ず従い、たとえ間違っていると思っても、意見を主張することはない。

きっと他人の目からみれば、おどおどして、自信のない人に見えるだろう。

八方美人で、 信用できない人と思われるだろう。

それでも私は、人目を意識し続けた。

ただただ、人に 嫌われたくない一心で。

ある日、友人が遊びに行こうと提案してくれた。

初めてのお誘いだった。

純粋にうれしくて、私は首を大きく縦に振った。

それを見た友人も笑顔になって、どこに行きたい?と私に聞いた。

私は友人が好きだった。

二人でいると、とても楽しかった。

話も合うし、なにより一緒にいて安心した。

だからこそ、彼女から悪い評価を下されることに、とてつもない恐怖を感 じた。

友人から誘ってくれたのだ、きっと彼女も行きたいところがあるのだろう。

私なんかの意見で彼女の希望をつぶしてはいけない。

そう思った結果、私はどこでもいい、そう 答えた。

その瞬間、友人の笑みは、あとかたもなく崩れ去った。

代わりに残ったのは、閻魔のよう な激しい怒りをあらわにした顔。

眉を逆立て、まなじりをつり上げ、友人は私に向かって 声を荒げた。

「いつも思ってたけど、あなた自分の意見言わないよね。

周りの目なんか気にしないで、 言いたいことをはっきり言いなよ」

私は、呆然として何も言い返せずにいた。

友人が何を言っているのかが理解できなかった。

そこに畳みかけるように、友人はさらに言葉を続けた。

「そうやって弱い人間アピールして何になるの? 周りの同情かいたいの? まるで悲劇 のヒロインだよね。どうせ私なんか、っていつも思ってるんでしょ?」

「違う、違うよ! 私は別に、悲劇のヒロインなんかじゃない! なんでそんなひどいこ というの?」

私はただ、嫌われたくなかっただけなのに。

私が愛する人達に、遠くへ行ってほしくなかっただけなのに……。

「私はね、周りの評価は気にしないし、気にならない。だって、人それぞれ共感できることもあれば、そうじゃないこともあるでしょ?いくら趣味や行動が合ってても、完全に同じ人なんていないんだよ」

語り始めた友人は、冷静になりつつあるのだろう。憤怒に染まった大きな声量を、少し落 として再び口を開いた。

「すべての人に愛されるなんて、正しい生き方じゃないんだよ。嫌われたくない、そんな 負の感情だけに目を向けて、人の顔色をうかがうあなたの気持ちが、私にはわからない。 人にはそれぞれ、長所があれば短所もある。あなたは自分自身の良い面に、気付いていないだけ。悪い面だけ視界にとらえるから、『私なんか……』なんて思うんだよ。そんなことしてたら、いつまでたっても悲劇のヒロインのままだよ」

「……私にいいところなんて一つもないよ」

私は涙が見えないように、顔を下に向けた。

友人の言っていることは正しい。

そんなことくらい、わかってる。

でも私には、とりえなんてひとつもない。

彼女のように、前向きに 生きることも、はっきりと自分の意見を伝えることも、私にはできない。

「あなたが気付いてなくても、あるんだよ」

私の頭の上に、手がのる感覚がした。

小さくて、やさしい手だった。

すべてを包み込むよ うな温かさに、思わず顔をあげてみると、友人は太陽のように輝く満面の笑みを、私に向けた。

「あなたに魅力があるからこそ、私はあなたと友達でいるんだよ。でもね、私は誰にでも 好かれようとして、周りの目を気にするあなたは好きじゃない」

「……それでも、嫌われないようにふるまわないと。素の自分をさらけ出したら、みんな 私から離れていくんじゃないかって、そう思っちゃうの。一人ぼっちになることが、私に とっては一番怖い」

「じゃあ、あなたは私のどこに惹かれて、友達でいるの?」

友人は、まっすぐ私を見つめている。

冗談を言うときや、私をからかうときのような、ふざけ半分の目ではなかった。

今にも私の心を貫きそうな、鋭いほどに真剣な目。

私はそんな視線を受けとめながら、頭の中で友人の長所をいくつも浮かべた。

明るいところ、ノリがいいところ、悪口を言わないところ、やさしいところ。

でも、その中でも特に、私が持っていないもの。

並みの努力では、真似できないもの。

ずっとうらやましいと、そう思ってきた、彼女の個性を感じる大切なもの。

「はっきりと思っていることを言えるところ」

友人はあきれたように、一つ小さなため息をついた。

「……ほら、やっぱり。あなたは自分の魅力に気づいてないだけ。人から好かれようとし なくてもいいじゃない。たとえ短所があったとしても、それを補うものが、あなたにはあるんだから」

友人の言っていることがさっぱり理解できずに、再び私は口を閉ざした。

その様子を察し たのか、友人は付け足した。

「他人の美点に気づけるところ。真面目なところ。いつも一生懸命なところ。あげたらキリがないけど、私はあなたの良いところを、うらやましいって思ってる」

「そんなことが、私の魅力なの?」

「そんなこと、じゃないよ。あなたの魅力は、ほかの人にしてみれば、簡単に真似なんてできない。あなたは私の友達であるとともに、私の尊敬する人でもあるんだよ。だから、 私はこれからもあなたと一緒にいたいし、一緒にいようって思えるんだから」

真っ暗な洞窟の道の先に、一筋の光が差しこんでくるようだった。

友人が与えてくれたその光は、私の陰が落ちた人生を明るく照らしてくれた。

誰もがもっているその人のよさ。

そんなものは自分にはないと、決めつけ、あきらめていた私に、彼女は正しい道を示してくれた。

その輝きに導かれて、私は洞窟の出口までたどり着いたのだ。

「ありがとう」 私は、友人に笑いかけた。

「これからは、もっと自分の魅力にきづいてよ」

友人もまた、私に向かってほほ笑んだ。

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