こだわり

私には、「こだわり」がなかった。

良い言い回しをすれば、自由で融通が利く人。

しかし、悪く言えば自分という個性がない空っぽな人。

私は、些細なことでも 譲らない、個人としての型を持っている、そんな「こだわり」にあこがれた。
あるとき、テレビを眺めていると、一人の有名人が目に映った。

彼は、自分を 曲げない人だった。
レストランに行ったら必ずオムライスを頼み、服は必ず綿製を身に着け、本は歴史書のみ目を通す。

そんな風に、規則に従って日々を過 ごす彼は、とてもかっこよかった。

私は、彼のような生活を強く望み、いつしか「こだわり」をもって生活するようになった。
「こだわり」のある生活は、気持ちよかった。

物やルールを決めて、その通りに動く。

思いのままに実行することができたときは、大きな快感を得ることができた。

しかし、それと引き換えに、期待外れの結果になった場合は、苛立ちが募った。

毎日過ごしていくうちに、その苛立ちは膨れ上がっていった。

爽快 な気分を感じたのは、最初のほうだけだった。

今ではルールというものに縛られ、失敗するたびに焦燥感に駆られた。

物事がうまく運ばないことが、もどかしかった。

そんな日々を繰り返すうち、いつしか苛立ちは頂点に達していた。

感情が爆発する前に、どうにかしなければ。

だが、私はどうしていいのかわからなかった。

苦しみという沼の奥底で必死にもがいていると、ある人が手を差し伸べてくれ た。

彼女は、私の隣で静かに話を聞いてくれた。

最後まで真剣に、相槌をうちながら。

そして、一通り話し終えると、彼女は私に聞いた。

私があこがれる有 名人は、何にこだわっているのか、と。
私は、物やルールにこだわっているのだといいかけて、口をつぐんだ。

その有 名人が、物やルールに「こだわり」を持っているのは確かだ。

しかし、彼は私 と違って、生き生きとしていた。

まぶしいくらいに輝いていた。だからこそ私は彼を尊敬し、羨望したのだ。

私は首を傾げた。その姿を見た彼女は、私の肩にそっと手をおき、空を見上げながら話し始めた。
「適度な『こだわり』は個を生む。

でも、物やルールに対してこだわりすぎる と自分が苦しくなる。

こだわらないことは楽なんだよ。

もし、『こだわり』をも ちたいのなら、こだわる対象を変えて、自分が苦しまないようにすればいいの」
彼女は一息つくと、私の顔に視線をうつした。

「その有名人はね、自分らしい生き方そのものにこだわっているんだよ」

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